> [!NOTE] 過去ブログ記事のアーカイブです おはようこんにちはこんばんは、江草です。 今日は少し話題になってる「東京の子育て世帯の生活費の高さ」の問題について。 東京の子育て世帯の生活費の高さを指摘する記事が話題です。 [「普通の生活」東京の子育て世帯でいくら?⇒30代で月54万必要です。(労組団体試算) | ハフポスト NEWS](https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5fdabc66c5b6f24ae35d46d1) 短い記事ですが、冒頭から読者に衝撃が走ります。 > 東京で夫婦と子ども2人の4人家族で「普通の生活」をするには、30代で月額約54万円、40代で月額約62万円、50代で月額約80万円が必要ーー。 この平均年収を容易に上回る「普通の東京生活」の高い生活費の概算が、ネット上のあちこちで動揺を誘っています。しかも、43m2前後のマンションというお子さん2人の家庭としてはやや手狭とも思われる住まいや、飲み会は月1回のみなどの、**比較的絞られた設定の上でもなおこの厳しい水準ということで絶望感が広がっている**のです。 「東京の生活は厳しい」というのは、うすうす皆感じてはいたことではあったでしょうが、こうして分かりやすい概算が出たことで、改めて問題が浮き彫りになった形です。 ともかくも、そこそこバズっていますので、記事の警鐘を鳴らす目論見は成功したと言えるでしょう。 さて、この生活費高騰問題に対策はあるのでしょうか。 記事はこのように提言します。 > 「働き方に関係なく、すべての労働者が8時間働けば普通に暮らせるようになるためには、生計費原則にもとづき賃金を底上げすることが最重要」 なるほど、「生活費」という支出面が厳しいのだから、収入面である「賃金の底上げ」をすることで、東京での生活に余裕をもたせられるはずという意味でしょう。 気持ちは分かります。 でも、**「賃金の底上げ」ではこの問題は解決しない**と江草は考えます。 以下、その理由を説明していきます。 **収入が上がれば生活は楽になるはず。** シンプルに考えればもっともではあります。 しかし、皆さんご存知の通り、世の中はそこまで単純ではありません。 家賃などの**住宅費は結局は市場原理で動いています。** 人気がある物件は家賃が上がりますし、人気がない物件は家賃が下がります。すると自然と **「住みたいと思う人がギリギリ払える値段」** に家賃の相場は落ち着いてきます。 さて、ここで賃金の底上げでみんなの収入がアップしたとしましょう。何が起こるでしょうか。 そうですね、**みんなの「ギリギリ払える値段」が上がるので、家賃も上がる**のです。 家賃が上がってしまえば、結局賃金が上がった分が解消されてしまい、元の木阿弥です。 これでは、生活に余裕が出ることがありません。 そして、賃金が上がって上昇するのは住宅費だけではありません。教育費も上昇します。 先日、塾の授業料の高さを憂うtweetが話題になりました。 [中学受験生の『1月分』の塾代のあまりの高さに驚愕する人たち「新卒の初任給より高い」「どんな世界なの…」 - Togetter [トゥギャッター]](https://togetter.com/li/1632892) 塾などの営利企業から請求される教育費も、市場原理が働くのでこうして高騰します。なぜ高騰しているかというと、逆に言えば **「そこまではギリギリ皆が払える値段」** だからです。ギリギリ払える値段なら皆払うのです。 ですので、同じように皆の賃金が底上げされれば、その分お稽古代などの教育費もそれに伴って上昇するでしょう。 **賃金が上がったのに教育費が上がるならば、結局生活に余裕は出ない**ことになります。 このように **「賃金の底上げ」** では東京での生活に余裕が出ない可能性は高そうです。 誤解のないように言っておくと、**「賃金の底上げ」が無意味と言っているわけではありません。** 収入アップに比べて支出相場の上昇が緩やかであれば、効果はあるでしょう。 しかし、**あまりそう高い効果は見込めそうにない**のが現実です。 そもそも、なぜ東京に人気があるかと言えば、1つには **「賃金が高いから」** という要因があるとされてます。 [年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学 | エンリコ・モレッティ, 安田洋祐(解説), 池村千秋 |本 | 通販 | Amazon](https://www.amazon.co.jp/dp/4833420821/) 例えばこの **『年収は「住むところ」で決まる』** という書籍でも指摘されていますが、イノベーション産業を抱えるような勢いのある都市に住めば、いわゆる高学歴職だけでなく低学歴職でも収入が高くなります。 日本で言えば、それはまさしく東京で、その収入の高さや、豊富な職業、人脈に憧れて、自然と人は集中するのです。 つまり、**賃金が高いからこそ、人気が出て、自然と生活費の相場も上がる**というメカニズムです。 **賃金が高いからこそ生活費が上がっているのだから、それに対して賃金を上げようといっても、イタチごっこになるだけ**でしょう。 ですから、**東京の生活費高騰問題を解決するには、東京への人気の集中をどうにかしないとどうにもなりません。** すなわち、**「東京住まい」以外の魅力的な選択肢が必要**です。 例えば他の都市での賃金アップであったり、豊富な職業の選択肢であったり、教育環境や文化資本の充実であったり、色々策はあるでしょう。 しかし、残念ながら現時点では**東京の対抗馬が弱い。だからこそこの「東京の生活費高騰」なのです。** 誰も冗談や道楽で「東京住まい」を選択しているわけではなく、きわめて真面目な人生の選択として「東京住まい」を決定していることを忘れてはいけません。 とはいえ、**この「人気都市」の生活費の高騰はきわめて難しい問題で、東京だけでなく、世界的な問題**でさえあります。 例えば、名だたるグローバルIT企業が軒を並べるサンフランシスコ。世界有数のイノベーション都市なので、当然人気の都市です。その結果、日本で言う普通のマンションの部屋レベルでも月の家賃が数十万円相当はざらで、**年収1300万円でも「低所得」扱い**だとか。 [年収1300万円でも「低所得」 米サンフランシスコの実情 - BBCニュース](https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-44780348) その厳しすぎる住宅事情から車上生活を送らざるをえない人が少なくないなど、格差の問題が生じているようです。 このように、**世界的にも共通の事象が見られることから、おそらくは現代社会の構造的な問題が潜んでいる**と言えます。 「賃金底上げ」ぐらいではどうにもならなさそうですが、さて、どうしたものでしょうね。 以上です。ご清読ありがとうございました。 #バックアップ/江草令ブログ