> [!NOTE] 過去ブログ記事のアーカイブです おはようこんにちはこんばんは、江草です。 今日は格差問題の議論の背景にある「成功要因の見分けがつかない問題」の厄介さをちょっと語ります。 世の中では、いわゆる「成功している人」に対し、**その成功の要因は何にあるか**、という点で揉めるケースが多く見られます。 代表例としては上野千鶴子氏の東大スピーチが有名ですね。 > あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと…たちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。 > > [平成31年度東京大学学部入学式 祝辞](https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message31_03.html) 「あなたたちの合格は努力というより環境の要因が強い」と言い切った、このスピーチには賛否両論すさまじい反響があったことは記憶に新しいところです。 大学受験合格は「その受験生の努力の成果」として誇り称えるのが多くの人々の常識であるところ、それにガツンと冷水を浴びせたわけですから(それも大学入学式の祝辞で)、非常に刺激的な問題提起だったと思います。 実際「教育格差」の世代間連鎖はあちこちで指摘されていますし、**「合格しやすさ」に環境要因が強い可能性は確かに否めない**と思います。 とはいえ、その受験生たち自身にとっては、**自分の経験として現実に確かに努力したのだし、それが「恵まれていただけだ」と回収されるのは極めて納得しにくい**ところでしょう。 仮に統計的に「大学合格には環境因子が強い」という傾向が示されていたとしても、同時に「その個人のその合格単体についてはどの要因が大きかったか」までは具体的な算出は不可能なのもまた事実です。 こうした大学合格のような「成功」に寄与した因子**が、**「遺伝(才能)」**なのか、**「環境」**なのか、**「運」**なのか、**「努力」なのか、客観的、計量的に判別できないがために、世の中で多くの対立や分断が起きているのは間違いないように感じます。 この対立しやすい傾向は格差問題に関連して誰がどれぐらい報われるべきか」の議論をする際に特に顕著です。 成功者は自分は努力した結果として有能であり、実際に多くの人に役に立っているのだから、相応の恵まれた待遇であるべき」と言います。 それに対し、非成功者側はその成功者の成功をたまたま才能があっただけだ」「環境がめぐまれていただけだ」「運がよかっただけだ」などと批判できます。 そうすると、それと同時に、逆に成功者は非成功者に対し自分が怠けているだけなのに人のせいにするな」と努力の要素を軸に、批判返しができます。 実際のところ、現実として本当にどの要因がその成功に寄与しているのか見分ける方法がないので、どうしてもこういう水掛け論になりがちなんですよね。 さらに言えば、そもそも努力をしていたから」「有能だから」相応の高待遇であるべきかというのも、自由意志の有無や、メリトクラシーを巡る議論があって自明ではなく、非常に厄介なんですよね。 でも、だからといって、何も努力を推奨しない社会も直観的には非常にまずそうな気がしますし。 そういうわけで、結局「その人に相応しい待遇はどれぐらいなのか」の議論をする際には、どの陣営であってもお互いに都合のよい理屈を持ち出せるので、なかなか噛み合わない政治的対立になりがちです。 特に、様々な格差問題に関しては社会全体として取り組むべき課題のはずなんですが、今の状況をいかようにでも解釈できてしまうがために、バランスの良い立ち位置が定めにくい難問となっています。バランス良くって言っても、「そもそもバランスがいい状態って何よ」ってなってしまうので。 江草の個人的な感覚では「今はちょっと努力要因以上に世の中の格差が広がりすぎてるんじゃないか」と感じているのですが、今の政府の「自助」方針を見るに、お上としては「お前ら努力が足らんぞ」という判断のようです。でも、確かにどっちにも見ようと思えば見えてしまうというわけで。 いや、ほんと困った話だなと思います。 以上です。ご清読ありがとうございました。 #バックアップ/江草令ブログ/2021年/2月