科学リテラシーは権威主義なのか

先生のイラスト科学

「科学リテラシーとは要するに権威主義なのか」という江草をウズウズさせるテーマの議論を見かけました。

 

はてな匿名ダイアリー

(2021/05/26 リンク切れ確認)

 

個人的にとても興味津津なテーマです。

とはいえ、まともに書くと本一冊ぐらいの分量にはなりそうです。

できるだけ抑えて、今日のところは、なぜこうした「科学リテラシーは要は権威主義なんでしょ」という主張が出てくるのか、を軽くふんわり考察しておくに留めることにします。

 

 

「科学リテラシー」は「権威主義」とは本来相容れない

さて、この「科学リテラシー」という言葉、例によって厳密な定義というのはなさそうです。

ただ、「リテラシー」という言葉が入っていることからも分かる通り、「自分で読み書きすること」というニュアンスを含んだものなのは間違い無いでしょう。

そうすると、その主体的で自律的なニュアンスからすれば「偉い人に従う」というニュアンスを持つ「権威主義」とは本来相容れない概念であるはずです。

 

 

「科学リテラシー」の理想と現実

ただ、世の中なんでもそうですが、理想と現実という二面性を考えないといけません。

確かに理想としては「科学リテラシーは権威主義ではない」のでしょう。

実際、冒頭の疑問に対し、「科学リテラシーは権威主義ではない」と否定するコメントを多々見かけました。

そうした否定の声は、背景のこの「理想状態」を想定をしていると思われます。

 

でも、問題は現実ではどうかという話です。

残念ながら、実際に科学的正しさを語る文脈で「権威主義的な振る舞い」が行われてるケースは少なくありません。

これがこの話のややこしいところなのです。

 

 

ときに「科学者」自身が「権威主義的な振る舞い」を見せている

たとえば、最近でもこんなTwitter上でのやり取りがありました。[1]厳密には医療リテラシーの話かもしれませんが、広い意味で科学リテラシーの文脈と捉えていいでしょう

 

[2] … Continue reading

 

専門的な議論ではあるので、少し解説が必要かもしれません。

簡単に言えば、人間ドックで肺癌スクリーニング目的のCT撮影を行うことの是非を議論している文脈です。

猫医長先生(@TigerKittyMom)の「喫煙者じゃないとか放射線被曝があるからといってCTを控えるのはおかしい」という趣旨の主張が発端です。

 

[3]本人希望でCTする人間ドックで、今どき放射線曝露がリスクがあるからCT撮らない方がいいと薦める医者達ってどうよ。 … Continue reading

 

ここに名取宏先生(@NATROM)[4]科学リテラシーの啓発活動に熱心なことで有名な通称「なとろむ先生」が登場し、”Choosing Wisely[5]一言で言えば「無駄な医療行為」を賢く省こうという世界的なプロジェクト”の推奨という根拠を提示して非喫煙者などの低リスク者にCT撮影を行う妥当性に釘を刺すリプをされたわけです。

 

しかし、ここであろうことか猫医長先生は「私は肺癌の診療の専門家である」と匂わせることで、批判を遮断してしまいました[6]なお、猫医長先生のツイートに出てきている”ATS”とは”American Thoracic Society”という権威ある学会のことを指していると思われます

 

 

これこそまさしく「権威主義的な振る舞い」すなわち「科学リテラシーを欠いた行為」と言えるでしょう[7]ちなみに最終的に「どちらの意見が正しいかどうか」は関係ありません。批判を「権威に基づいた論証」で遮断した態度が問題です

 

 

「科学者」だからといって十分に科学リテラシーがあるとは限らない

結局のところ、医師などの「科学の素養がある専門家」、すなわち世間的に「科学者」と見なされる人物であってさえ、このように「科学リテラシーが欠けている者がいる」という現実が厄介なのです。

もちろん、総合的な傾向として「科学者」の方が科学リテラシーを有している傾向を持つのは間違いないでしょう。

しかし、だからといって、全ての「科学者」が十分な科学リテラシーを有しているということにはなりません。

 

 

まず「科学者」が範を示さないと「科学リテラシーの理想」に近づけない

残念ながら、こうした「科学者が権威主義的な振る舞いをしているケース」は日常的に見受けられます。

  

「科学リテラシー」と聞いて、人が「科学者は科学リテラシーを有している」と期待するのは自然です。

そこで、「科学者」自身が「私は権威なのだから科学的正しさを有している」と言わんばかりの「権威主義的振る舞い」をしているのを日頃から見せつけられれば、非専門家の人々が「ああ、科学リテラシーってえらい専門家の言うことを聞けって意味なのね」と誤解するのも無理はありません。

 

つまり、権威に頼った論法を多用する「科学リテラシーを欠いた科学者」がいればいるほど、現実が理想から乖離していき、冒頭の「科学リテラシーとは要するに権威主義でしょ」という誤解が強まると考えられるのです。

 

 

「科学リテラシーとは要するに権威主義なんでしょ」という主張は、科学リテラシーの理想からすれば、まさしく心外で怒りたくなる気持ちもわかります。

それをちゃんと否定することはもちろん必要でしょう。

しかし、まず科学者のコミュニティ内で「権威主義に依らない科学リテラシーの実践」を徹底する範を示せていないのであれば、その説得力を欠くのもまた事実なのではないでしょうか。

 

 

 

以上です。ご清読ありがとうございました。

 

脚注

脚注
1 厳密には医療リテラシーの話かもしれませんが、広い意味で科学リテラシーの文脈と捉えていいでしょう
2

先生は肺癌の診断や治療のご経験がおありですか?私はATSでの発表経験もありメンバーですが、これをご提示されても検査が必要な方のCTは撮りますし、妊孕能の女性等は必要性がない限り検査しません。呼吸器専門医としてはこのような認識です。

https://twitter.com/TigerKittyMom/status/1393653829246144513

3

本人希望でCTする人間ドックで、今どき放射線曝露がリスクがあるからCT撮らない方がいいと薦める医者達ってどうよ。 日本人の肺癌の死亡率は男性から1位で女性2位よ。喫煙者でなくとも発症するのよ。理解できない。

https://twitter.com/TigerKittyMom/status/1393393066011021314

4 科学リテラシーの啓発活動に熱心なことで有名な通称「なとろむ先生」
5 一言で言えば「無駄な医療行為」を賢く省こうという世界的なプロジェクト
6 なお、猫医長先生のツイートに出てきている”ATS”とは”American Thoracic Society”という権威ある学会のことを指していると思われます
7 ちなみに最終的に「どちらの意見が正しいかどうか」は関係ありません。批判を「権威に基づいた論証」で遮断した態度が問題です

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