> [!NOTE] 過去ブログ記事のアーカイブです 「科学リテラシーとは要するに権威主義なのか」という江草をウズウズさせるテーマの議論を見かけました。 > [!NOTE] (2021/05/26 リンク切れ確認) 個人的にとても興味津津なテーマです。 とはいえ、まともに書くと本一冊ぐらいの分量にはなりそうです。 できるだけ抑えて、今日のところは、なぜこうした「科学リテラシーは要は権威主義なんでしょ」という主張が出てくるのか、を軽くふんわり考察しておくに留めることにします。 さて、この「科学リテラシー」という言葉、例によって厳密な定義というのはなさそうです。 ただ、「リテラシー」という言葉が入っていることからも分かる通り、「自分で読み書きすること」というニュアンスを含んだものなのは間違い無いでしょう。 そうすると、その主体的で自律的なニュアンスからすれば「偉い人に従う」というニュアンスを持つ「権威主義」とは本来相容れない概念であるはずです。 ただ、世の中なんでもそうですが、理想と現実という二面性を考えないといけません。 確かに理想としては「科学リテラシーは権威主義ではない」のでしょう。 実際、冒頭の疑問に対し、「科学リテラシーは権威主義ではない」と否定するコメントを多々見かけました。 そうした否定の声は、背景のこの「理想状態」を想定をしていると思われます。 でも、問題は現実ではどうかという話です。 残念ながら、実際に科学的正しさを語る文脈で「権威主義的な振る舞い」が行われてるケースは少なくありません。 これがこの話のややこしいところなのです。 たとえば、最近でもこんなTwitter上でのやり取りがありました。 ![twitter](https://twitter.com/TigerKittyMom/status/1393653829246144513?s=20) 専門的な議論ではあるので、少し解説が必要かもしれません。 簡単に言えば、人間ドックで肺癌スクリーニング目的のCT撮影を行うことの是非を議論している文脈です。 猫医長先生(@TigerKittyMom)の「喫煙者じゃないとか放射線被曝があるからといってCTを控えるのはおかしい」という趣旨の主張が発端です。 ![twitter](https://twitter.com/TigerKittyMom/status/1393393066011021314?s=20) ここに名取宏先生(@NATROM)が登場し、”Choosing Wisely”の推奨という根拠を提示して非喫煙者などの低リスク者にCT撮影を行う妥当性に釘を刺すリプをされたわけです。 しかし、ここであろうことか猫医長先生は「私は肺癌の診療の専門家である」と匂わせることで、批判を遮断してしまいました。 ![twitter](https://twitter.com/TigerKittyMom/status/1393658469400547330?s=20) これこそまさしく「権威主義的な振る舞い」すなわち「科学リテラシーを欠いた行為」と言えるでしょう。 結局のところ、医師などの「科学の素養がある専門家」、すなわち世間的に「科学者」と見なされる人物であってさえ、このように「科学リテラシーが欠けている者がいる」という現実が厄介なのです。 もちろん、総合的な傾向として「科学者」の方が科学リテラシーを有している傾向を持つのは間違いないでしょう。 しかし、だからといって、全ての「科学者」が十分な科学リテラシーを有しているということにはなりません。 残念ながら、こうした「科学者が権威主義的な振る舞いをしているケース」は日常的に見受けられます。 「科学リテラシー」と聞いて、人が「科学者は科学リテラシーを有している」と期待するのは自然です。 そこで、「科学者」自身が「私は権威なのだから科学的正しさを有している」と言わんばかりの「権威主義的振る舞い」をしているのを日頃から見せつけられれば、非専門家の人々が「ああ、科学リテラシーってえらい専門家の言うことを聞けって意味なのね」と誤解するのも無理はありません。 つまり、権威に頼った論法を多用する「科学リテラシーを欠いた科学者」がいればいるほど、現実が理想から乖離していき、冒頭の「科学リテラシーとは要するに権威主義でしょ」という誤解が強まると考えられるのです。 「科学リテラシーとは要するに権威主義なんでしょ」という主張は、科学リテラシーの理想からすれば、まさしく心外で怒りたくなる気持ちもわかります。 それをちゃんと否定することはもちろん必要でしょう。 しかし、まず科学者のコミュニティ内で「権威主義に依らない科学リテラシーの実践」を徹底する範を示せていないのであれば、その説得力を欠くのもまた事実なのではないでしょうか。 以上です。ご清読ありがとうございました。 #バックアップ/江草令ブログ/2021年/5月