医局は何が問題か

医師たちのイラスト医療

おはようこんにちはこんばんは、江草です。

今日は、「医局は何が問題か」という、ちょっと身の危険を感じなくもない話を書いてみますね。

 

医局のメリットを強調する論法が無視するもの

なぜ医局の話を書こうと思ったのかと言いますと、こちらの「【公式】なぜ画像診断レポートの見落としはこんな方法だけで予防できるのか?放射線科医がやれば楽勝‼」氏[1]お名前が寿限無寿限無並の長さですね笑のツイートにインスパイアされたのがきっかけです。

 

 

氏の仰るところは全く同感でして、医局も様々だったり、良い面があるのも確かなので、なかなか問題点が意識されにくいのですよね。

 

で、「批判も多いけどやっぱり医局のメリットはいっぱいあるよね」という医局擁護の意見をしばしば聞くことがあります。

「幅広い病院での勤務を経験するのは医師としての研鑽を積むのに良い」とか、

「民間の派遣会社は中抜きがあるから医局の方がよい」とか、

「関連病院にとっても民間の業者からより医局から派遣される医師の方が安心」とか、

が代表的な擁護の意見ですかね。

 

実際のところ、提示されてるそれらのメリットは妥当なところと感じます。

江草も医局にそういうメリットがあることは否定しません。

ただ、こういった「医局のメリットを強調する論法」は、医局がはらむ「ある最大の問題点」を無視してしまっていると言わざるを得ません。

 

それは「医局には法的根拠がないこと」です。

 

医局の存在や活動の法的根拠はない

医局は、「医局制度」などと呼ばれ、関連病院に医師を派遣したり、大学病院や大学院で医師の教育、研究を担う機能があると認知されています。

大学病院の臨床業務については表向きは「大学病院」という組織の機能ですが、同時に医局の存在も不可分なものとして扱われています。

 

「制度」と聞くと、あたかも公式に存在しているような雰囲気をかもしだしていますが、法的根拠のない曖昧な存在です。

これだけの大学や病院に密接に関わり、重要な機能を担っているにもかかわらず、です。

 

これは、江草が勝手に言いだしてるわけではなく、国会でも議論されたことがある由緒正しき問題です。

答弁の一部を紹介しましょう。

 

○清水政府参考人 

お答え申し上げます。
 大学の医学部には、教育研究組織として講座が、医学部の附属病院には、診療組織として診療科が置かれておりますが、両者が一体となって教育研究、診療を遂行するという観点から、多くの場合、附属病院の各診療科長は、医学部講座の教授が兼ねているというふうな状況でございます。医局とは、これら教授を中心とした講座、診療科に所属する医師の集団を指す言葉として用いられており、法令上あるいは予算上位置づけられた組織や仕組みということではございません。
 医局の機能についてのお尋ねでございますが、これら教育研究、診療を円滑に進めるための一つのまとまりとして、地域医療機関への医師の紹介あるいは研究発表会、新しい医療技術の普及などの活動がある、そういう機能を果たしていると承知しております。

第154回国会 衆議院 厚生労働委員会 第17号 平成14年6月5日

 

このように文科省の参考人(当時)も「医局は法令上あるいは予算上位置づけられた組織や仕組みではない」と明言しています。

これに対して、民主党の加藤公一委員が、その曖昧な組織存在にもかかわらず、医局員を派遣する行為は違法性があるのではないかと問い詰める流れが続きます。

少し長いですが、興味深いところですので引用しましょう。(これでも一部ですが)

 

○加藤委員

私は、法律論ではなくて、本来は政策論を議論したかったり哲学論を議論したかったりするんですが、冒頭申し上げたように、関西医科大学で研修医の方が過労死をしているんですよ。お一人命を落とされて、裁判になって、大阪高裁で、それは労働者に該当するという判決までもう出ているわけですよ。だから、今大臣がおっしゃったように、医局という大きなくくりの中で、会社でいえば人事異動のようなものですという指摘は絶対に当たらないんですね。これは裁判で労働者に該当するという判断が下っているわけですから。
 つまり、医局というところに、非常にあいまいな任意団体だと思いますけれども、そこに所属をしているお医者さんというのは、ある方は大学病院で雇用されているし、ある方は、大学院に行って授業料を払いながらこき使われている方もいるなんというとんでもない話も聞きますけれども、そういう方があったり、あるいは研修の名目で、奨学金でわずか数万円だけ月に受け取って働かされている、関西医科大の問題なんかはこうなるんでしょうけれども、こういうことがあったり、あるいは紹介を受けて関連の病院に行ったりと、雇用形態はまちまち、別々なわけですから、これは、ある一定の組織の中の人事異動というにはとても当たらないと思います。
 もう一度伺いますが、労働者を他人の指揮命令を受けて働かせる、これは労働者供給事業だというふうに書いてあって、職業安定法で現に禁じられているわけですね。大臣も、もう数年前から医局については変えなきゃいけないと何度も国会で御答弁をされていらっしゃいますから、だからこそあえて伺いますけれども、これは法律的にも今極めて違法性が高いわけでありまして、私の考え方では労働者供給事業に当たるとしか思えないんです。もう一度伺いますが、大臣、そうは思われませんか。

第154回国会 衆議院 厚生労働委員会 第17号 平成14年6月5日

 

この追及に対して、結果的に厚生省も後日通達を出しています。

こちらも面白いので全文読んでいただくのがいいのですが、一部を引用しますと、こんな感じです。

 

医局長等が大学病院に勤務する(勤務していた)医師に対し、関連病院を紹介し、当該医師が医局長等からの指示・命令により関連病院に就職することは、支配従属関係の下で就職先のあっせんを行ったとみなされる疑いが強く、労働者供給に該当する恐れがあり、また、それらを反復継続的に遂行している場合には、職業安定法上禁止されている労働者供給事業に該当する恐れがあるので、当該医師が医局長等からの指示・命令でなく、その自由意思に基づき当該関連病院に就職するように注意を促し、その是正指導等を行う。

いわゆる 「医局に よる医師の派遣」 と職業安定法 との関係 について(pdf注意)

 

総じて「場合によっては違法の恐れがあるので個別具体的な事例の検討を要する」という感じで、やや歯切れの悪い形ではありますが、違法の恐れがあることは認められていますね。

 

そもそも、現実問題、国の回答の歯切れが悪いのも仕方がない面があります。

なにせ、医局に法的根拠がないので、本当に「国の管轄外の話」だからです[2]暗黙知としてはもちろん認識しているでしょうが

国が、大学の有志で作った野球部サークルの件について違法ではないか聞かれても困るのと同じで、管轄外のものをアレコレ言われても、公的な回答ができかねるのは仕方がないところでしょう。

 

いずれにせよ、こうして見てきた通り、医局はあくまで有志で集まった任意団体で、存在や活動には法的根拠がなく、国にも管轄できない幽霊のような組織であることは、医局の最大の問題点と言えるでしょう。

 

非公的組織が大手を振って活動している奇妙さ

もちろん、任意に有志が集まって研鑽や勉強のために交流することは否定されるべきことはないでしょう。

また、グレーな行為や、軽い違法行為についても、なんだかんだ世の中完全に避けられないのも分かります。赤信号を無視したことがない人はこの世にいないでしょうし、あまりに杓子定規に「法律!法律!」と言いたいわけではありません。

 

ただ、医療という国家的・国民的にも非常に重要かつ巨大な分野で、医局という非公的組織が大手を振って活動していることの奇妙さは感じざるを得ません。

 

たとえば、「臨床研修制度が医局制度を破壊してけしからん」という意見をしばしば聞きますが、そんな制度はないのですから、破壊するもなにもありません。

対する臨床研修制度は疑問点は多々あれども、一応公式に設けられた制度なので、医局制度と比べるべくもないものです。

 

またたとえば、適当に大学医局のホームページでも見てみたら、堂々と「医局制度」と言ったり、「多数の病院で研鑽が積めますよ」などと喧伝したりしています。制度でもないし、外の病院の人事権を持っているわけでもないのにです。

こうしてみると、本来の任意団体という立場を越えた「制度」とも言うべき大きな存在である、また、医師の派遣業を担っている、と医局組織自身も自認しているのは間違いのないように思われます。

 

ですが、本来認められていない派遣業としての立場を全面に出すのはいかがなものでしょうか。

たとえば、モグリ医師のブラックジャックも、あくまで裏稼業としてこっそりやっているのです。

そのように裏でこっそりとやるわけでもなく、堂々と営業してるとなると、事実上、賭博場なのに、遊戯場ですよと言い張ってるパチンコ店のようなものです。

パチンコならまだ遊びですみますが、医局が携わっている分野は、人々の生命や健康に関わる医療です。

そんな適当なあり方で本当によいのでしょうか。

 

しかも、現に医局は法的にグレーな派遣業務だけでなく、無給医のような明らかな違法行為や、入試点数差別などの不公正な行為にも関与していることが知られてきています。

 

医局がこれだけ広く認知され社会的影響力が強い組織にもかかわらず、法的根拠のない曖昧な組織であり、その上で、このようにしばしば実際に御法に触れることをしてしまっているのは、そのあり方を問われてしかるべきでしょう。

 

メリットも強権的に作っているだけ

で、冒頭に挙げた種々のメリットも、確かに医局のメリットとして存在しているのかもしれませんが、問題はそのメリットの築き上げ方です。

 

本来は有してないはずの医局人事権を行使して、関連病院から有利な待遇や、医師の受け入れ、といったメリットを強権的に引き出しているにすぎません。

しかも、その上で、場合によっては、医局の息のかかってない病院からは人払いをしたり、専門医研修等々で不利になるように兵糧攻めにしたりするわけです。

つまり、本来有してないはずの人事権を用いて、実質医局に入らないといけない状況を作り出してることになります。

 

医局を批判する人に対し「嫌なら入るな」と言う声はよくありますが、そう言いながら、一方で外の畑を焼き払う仕草をしているのだとすれば、それはなかなかにズルいやり方ではないでしょうか。

もとより、独占禁止法などに象徴されるように、そうした「人事を独占した組織が被雇用者の自由選択を狭める強権的な動きをすること」はよろしくない、という法の精神はあるわけです。

ましてや、非公式で法的根拠のない人事権の行使による人材の寡占は、絶対にあってはならないことと言えるでしょう。

 

「いい医局もあるよ」は無邪気すぎる

と、医局組織を悪者のように描いてきましたが、そういった悪い医局組織ばかりでないことも重々承知しています。

医局員や教授だって、いい人や優秀な人ばかりなのを江草は分かっています。

でも、だからこそ歯がゆいし、悲しい現状と思うのです。

 

確かに、いい医局はあります。

でも、実際に無給医といった法律違反行為がまかり通っています。

また、実際、病院から人員を引き上げたなどの、医局人事の揉め事も少なからず見聞きします。

ひどいものでは「この医師を雇うべからず」という破門状が各関連病院にFAXされたという話だってありました。

 

こうした現状を見た上で、「でもいい医局もあるよ」「医局にもメリットがあるよ」で済ませてしまうのはあまりにも無邪気すぎるのではないでしょうか。

むしろ「いい医局」にいるならばこそ、逆にそうした「悪い医局の許しがたい行為」には、他の医局も口を揃えて大声を上げて批判するべきではないでしょうか。

 

そもそも、「いい人ばかりのはず」「いい組織ばかりのはず」という性善説がなりたたないからこそ、社会では悪行を防ぐための最低限のルールとして法律が定められているはずです。

しかし、法的根拠のない医局に対しては、治外法権的に、そうした法による保護が及ばなくなってしまっています。

 

だから、医局が大事なシステムだと言うならば、それこそ丁寧にやるべきしょう。

すなわち、「一部の医局のような不法行為や不公正な行為をすることは許さない」という断固とした意思表示として、医局をちゃんと法的根拠に基づいた制度として整備するための活動をなすべきかと思います。

そうしないのなら、それはやはり、「医学の発展」だの、「医師の能力の向上」だの、「地域医療を守る」だの、どれだけの耳触りの良いミッションを並べようとも、申し訳ないですが、医局はアウトローで不正義な存在と言わざるを得ないのではないでしょうか。

 

以上です。ご清読ありがとうございました。

脚注

脚注
1 お名前が寿限無寿限無並の長さですね笑
2 暗黙知としてはもちろん認識しているでしょうが

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