最近観た『ノマドランド』と『パラサイト 半地下の家族』の感想。


ここんところ随分と映画はチェックできてなかったのですが、余裕のあるうちにアカデミー賞受賞作ぐらいはちょっと観溜めしておこうと。
深く考えずにウォッチリストにあったこの二作品を観たのですが、思った以上に両作品の共通点があって興味深かったです。
以下、重大なネタバレは避けるつもりですが、ゆるく内容には触れるので、全く情報が欲しくない方はここでお引き返しを。
『ノマドランド』

今年のアカデミー賞作品賞など3部門受賞したアメリカ映画。
劇場公開時から評判が良かったので、前々から観ようと思ってた一作。
一言で言えば、企業城下町に済んでいた主人公の高齢女性(60代)が、企業の倒産による城下町の衰退に伴い、家を追われ、仕事を求めてキャンピングカーでアメリカ国内を転々としながら生きる様を描いた作品。
主人公の移動とともにアメリカ各地の美しい風景が頻繁に映り込むのが特徴で、映像美に圧倒されます。
ロードムービー的な作品なのですが、最終的には最初の地点に戻ってくるので、むしろ「行きて帰りし物語」と言うべきかもしれません。
劇中に色々な出会いと別れを経た後に出発地点に戻ってきた主人公が行う決断が、主人公の内面の変化を思いはかる象徴となっています。
わりと単調な展開が続く作品なので、勧善懲悪アクション映画的なカタルシスを求める方には向いてないです。
恥ずかしながら江草もちょっとつい寝かけたシーンがありました。
でも、作品としては確かに良かったと思います。
資本主義社会の論理から放り出された人々が、ともに助け合って生き抜く様。
雄大な自然の中での生活と、巨大企業での日雇い労働の対比。
人生とはなにか。どう生きるべきか。
という古今東西の普遍的な課題について考えさせられます。
なによりこの映画で驚いたのは、出演してるノマドの皆さんが本当のノマドの方々であるということです。
主人公を含んだ2人は役者ですが、他の人はみな本人出演なんだそう。
あまりにも自然に映画になってるので、本編を見終わったあとで気づいて驚きました。
そういう意味で、ノマド生活のリアルを感じさせる、すごいドキュメンタリー映画とも言えそうです。
『パラサイト 半地下の家族』

昨年のアカデミー賞作品賞など4部門受賞した韓国映画。
これも大変に評判が良かったので、前々から観ようと思ってた一作。
貧乏で半地下という劣悪な住居に住んでいる4人家族(父、母、長男、長女)が主人公です。
友人の縁があって、長男が高台の豪邸に住むお金持ちの家に家庭教師の仕事を得たことから、一家の悪だくみが始まります。
そもそも長男も大学に通ってないのに「大学生」と身分を偽ってるのですが、同様に家族の他の3人もそのお金持ちの家にあの手この手でうまく雇われていきます。要は詐欺ですね。
この貧乏家族がいつのまにか富豪家族の一員としてうまく入り込んでる様がまさしく「パラサイト」です。
もちろん、詐欺は犯罪なのですが、『オーシャンズ11』などのいわゆるコミカル犯罪ムービー的な面白さがあり、おかしくてしばしば笑ってしまいます。
このコミカル犯罪ムービー要素だけでも十分良作と言える出来なのですが、この作品がさらにすごいのは中盤からの展開です。
中盤で驚きの事実が発覚してから、ストーリーは急変します。
核心的なネタバレになるので詳しくは言及できないのですが、そこで露わになるのは階層社会の残酷な現実でした。
この中盤の急変から、パラサイト成功で順風満帆に見えた一家の運命も全く予想ができないものになります。
いったいどうなってしまうのかハラハラしながら見届ける結末に、視聴者は苦悩せざるを得ないでしょう。
コミカル犯罪ムービーの顔だけでなく、こうしたサスペンス社会派映画の顔を見せる二面性を、きれいにまとめ上げた手腕は確かに圧巻で、作品賞もうなずける良作でした。
正直かなり感動した完成度です。
通底する「貧困」のテーマ
何気なく続けて観た両作品でしたが、共通するテーマがありました。
それは「貧困」です。
最近では邦画でも同様に貧困の一家を描いた『万引き家族』がありましたし、ここんところの映画のひとつのトレンドと言ってもいいのかもしれません。

いずれの作品も、コミュニティのあり方や意義、そして貧困層の方々の尊厳が大きく扱われてるなと感じます。
『ノマドランド』では、ノマドの方々の時々集まっては離れる「See You」文化のゆるくつながるコミュニティ。
『パラサイト』や『万引き家族』では、生きるために犯罪に手を染めるも、彼らなりに助け合って生きている姿。
こうした姿を見て「絆っていいよな」なんて素朴に受け取るのは、恵まれた者の傲慢でしかないのかもしれません。
それは「みんなあなたみたいに身軽じゃないのよ」と、(憧れの気持ちも含めてなのか)つぶやいた『ノマドランド』のとある登場人物のように。
でも、やっぱり確かに私たちが何か忘れてしまってるものがそこにある気はしてしまいます。
また、より大事なのはそれぞれの作品で主人公たちが「怒り」を見せる場面でしょう。
いずれの作品でも、貧困に陥りながらもそれなりに平和に生きていた彼らが、怒りの感情を出す場面があります。
『ノマドランド』では静かな怒りでしたが、『パラサイト』では爆発した怒りでした。
怒りの原因として共通してるのは、さきほど言及した「恵まれた者の傲慢さ」に直面したことと言えます。
「恵まれた者」があたかも自分たちこそが正義であるかのように、あたかも自分たちこそが優れた人間であるかのように語ったり、主人公たち貧困層に見下した目線を投げかけた時、彼らは怒ります。
それは、彼らの尊厳を傷つける「度を越してしまった」から。
格差社会と言われて久しい世の中です。
映画は世相の鏡とも言われますが、いよいよこうして格差や貧困のテーマでの名作が粒ぞろいとなってきているのを見ると、これは、貧困への対応や彼らの尊厳の尊重、そして私たちの生き方そのものを、社会的に真剣に考えなければいけないフェーズに入ってきた証左かもしれません。
以上です。ご清読ありがとうございました。
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