誰しも「社会に必要な仕事をしている」と思いたい

街の人々のイラスト労働

緊急事態宣言下に入った都内で、寄席が「営業を継続する」とした決断が話題です。

 

寄席、無観客応じない決断 「社会生活に必要なもの」:朝日新聞デジタル
 25日に4都府県に出される緊急事態宣言を受けて、東京都内に四つある寄席は、客数を定員の半数以下に減らして通常通り興行をすることを明らかにした。都から無観客での開催を要請されたが、例外規定である「社会…

 

「無観客開催ならOK」との無理難題の自粛要請が背景にあり、寄席らしい皮肉の効いた回答として、称賛する声も多いです。

それはそれでいいのですが。

ただ、これ、おそらく皮肉ではなく、寄席の方々はけっこう本気で「社会に必要な仕事だ」と主張してるのではないかと思うのですよね。

 

 

実のところ、「社会に必要な仕事をしている」「人の役に立ってる」などと言って、「人生の意味を仕事に求める人」はかなり多いです。

就職活動でも「社会の役に立ちたい」と言う志望動機は定番です[1]もちろん、建前の人もままいるでしょうが

自己紹介をする時、多くの人が「自分の職業」から入ります。

子どもたちでさえ、「将来の夢」を聞かれたらほとんどの場合職業名を答えます。

仕事は人々にとってまさしくアイデンティティなのです。

そして、「仕事とは社会の役に立つことなのだ」というのが皆の共通認識になっています。

 

これは何も江草が勝手に言ってるわけではなく、マイケル・サンデルも同様のことを指摘しています[2] … Continue reading

ロバート・F・ケネディは、1968年に党の大統領候補者指名を目指していたとき、それを理解していた。失業の痛みは、たんに失職により収入を絶たれることではなく、共通善に貢献する機会を奪われることだ。「失業とは、やることがないということ――それは、ほかの人たちと何の関係も持たないということです」と彼は説いた。「仕事がない、同胞の役に立たないということは、実際には、ラルフ・エリソンが描いた『見えない人間』になるということなのです」

早川書房 マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か』p294

 

となると、自分の仕事が「不要不急の仕事」と認定されることは、その仕事に従事する人々にとって、まさに自分の人生の意義に対する危機となります。

だから抵抗します。「社会に必要だから」と営業を強行したり、「休業させるならその分補償しろ」すなわち「私たちの仕事は存続せねばならない仕事だという、社会からの誠意を示せ(意訳)」と迫ったりします。

 

時に、医師などのエッセンシャルワーカーに噛み付く人がいるのも、そうした仕事アイデンティティの危機感の裏返しかもしれません。

たとえば、某所で「今の時期に緊急事態宣言を出すのは、医師がGW中休みたいだけだろ」というコメントがありましたが、これはすなわち「社会に必要なエッセンシャルワーカー様は当然GWは働き詰めですよね?(意訳)」という「エッセンシャルさ」に対する皮肉ではないかと邪推します。

 

 

こう考えると、現在、自粛に対して各業界から反発が広がってる状況は、アイデンティティと不可分となってる「仕事をすること」に罪深さが付与されてしまうコロナ禍という特異な環境下で、「それでもなお自分の仕事は社会にとって必要な仕事なのだ」と誰もが証明したがってる状況と言えるのではないでしょうか。

みな自身の尊厳をかけて、必死なのです。

 

もちろん、コロナ禍の長期化による、お金の問題も当然あるとは思います。

ですが、自粛に対する反発心は、お金よりもこうしたプライドの問題の方が、もしかするとよっぽど根深いかもしれません。

 

 

なお、本稿に、「寄席が社会に必要な仕事でない」と主張する意図はありません。

むしろ江草も最近本を読んで、ぜひ寄席に行きたいと思ってたぐらいです。

 

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営業継続されると聞いても、残念ながらさすがにこの緊急事態宣言下ではおいそれと聞きには参れませんが。

緊急事態宣言にまつわる時事ネタということで、寄席は話の枕で登場していただいただけです。あしからず。

 

 

以上です。ご清読ありがとうございました。

脚注

脚注
1 もちろん、建前の人もままいるでしょうが
2 デヴィッド・グレーバーも『ブルシット・ジョブ』で似たような話に触れてますが、引用しやすい箇所がぱっと見つからなかったので今回は省略します

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