> [!NOTE] 過去ブログ記事のアーカイブです ワクチン関連の報道に関して、医療関係者のみんなが怒ってるシーンをよく見かけます。 最近始まったことではないはずなのですが、どうもここのところ、とみに増えてる気もします。 たとえば、最近見たところでは、 「中立だ、両論併記だなどと言って反ワクチン派の主張を並べるな」 「ワクチンを受けるのをためらってる人の声を重要そうに示しすぎ」 「反ワクチンの意見を示すなら、ワクチンの効果や安全性への配慮についても同時に紹介すべき」 のような怒りの声が多いでしょうか。 これらの意見はもっともですし、江草も確かにそうだなと思っています。 ただ、だからといって、あたかも悪の集団かのように「マスゴミ」などと罵るのもどうかと思うんですよね。 実際のところ、メディアの方々は本当に真面目にやっていて、最善を尽くした結果がこれなんだと思うんですよ。 本当に正義感を持って、社会のことを考えていて仕事をしていて、ましてや悪意なんぞ全く無いように思います。 でも、医療者目線から見たら、力が及んでないし、満足できない形になっている。 それはなぜかというのが、今の世の中の一番の問題です。 これ、多分ひとつには、ワクチンと反ワクチンの言説をどっちを推して良いのか、メディアの人たち自身、よく分からないからだと思うんですよ。 すなわち、ワクチンと反ワクチンの主張とどちらが妥当なのか、実のところ自分たちでは判断つかない状況に陥ってるんだと思います。 この両者の主張の鑑別は、医療者からしたら当然のように思える判断かもしれません。 でも、非医療者からしたらけっこう高度で難しい判断の部類なんじゃないでしょうか。 あれは講義の時の話だったか、飲み会をしている時の話だったかは忘れましたが、江草が過去に科学コミュニケーションの教員の先生から聞いた話です。 日本の新聞記者は理系出身者が極めて少なく、ましてや実際に科学研究に携わったことがある人材はまずいない。だから残念なことに科学部の記者でさえ、科学のイロハを学んだことがないことも珍しくない。欧米では理系出身の記者も多いのと対照的なんだ。 と。 あくまで江草のうろ覚えかつ伝聞でしかないのですが、これが事実なら世の科学関連の記事の多くが*微に入り*細を穿つものにならないのも当然で、非常に由々しき事態だなと感じた記憶があります。 これは「メディアの記者たちは科学の素養がなく愚かだ」ということを言おうとしてるのではありません。 そうではなくて、多様性の話をしています。 メディアというのは、この世の全てのジャンルを扱い伝える仕事であるはずです。 だからこそ、全てをつなぐ役割として、「メディア(媒体)」という呼称を授かってるわけです。 その意味で言えば、文系出身者はもちろん必要です。 でも、理系出身者がいないというのはそれはやはり偏った分布じゃないかと思うのです。 多分、中にいる人たちとしては精一杯やってらっしゃるんだと思います。 それこそ、熱意と正義感を持って真剣に。 こうした仕事にかける気持ちというのは業界を問わず、そう違わないと思っています。 そこを否定するような批判は江草は嫌いです。 でも、業界の中で人材が偏っているならば、どうしても盲点になるところが出てしまうのは当然ではないでしょうか。 メディアが本当に中立公正でいたいなら、そこに関わる人材も幅広く多様性がなくてはならないはずです。 そうでなくては、全てをつなぐ媒体(メディア)としての役割を十分に果たせないのではないでしょうか。 真剣に漕いでも船が傾いている時、それは船の重量バランスが偏ってしまってることを疑うべきです。 少なくとも、理系人材不足はかなり重大な偏りに感じます。 ちゃんとした役割を果たす媒体(メディア)がなくては、世界は真空で隔てられて、お互いの声が届かなくなってしまいます。 そうして対話が行えず、コミュニケーション不全に陥ったならば、互いに疑心暗鬼になって敵意を育む温床となってしまうでしょう。 そして、それが今実際に起こりつつある危機のように思うのです。 もっとも、メディアの人に対する要望だけではフェアではないので、科学側、とくに医療者にも一言置いておきます。 医療者はたしかに医学に詳しいです。 だから、メディアの人が最善を尽くし四苦八苦しながら医療関係の記事をしたためたとしても、力が及んでないと感じることがあるのは当然ではありましょう。 足りない点を指摘し批判するのはもちろん必要なことです。 でも、そこで勢い余って「マスゴミ」などと罵り叩いても仕方ないのではないでしょうか。 それこそメディアの方々に要らぬ敵意を抱かせるだけではないでしょうか。 逆に言えば、医療者はメディア論やマスコミ業界の実際をほとんど何も知らないはずです。 何も知らない人に医療のことをアレコレ言われた時に医療者がムッとするように、何も知らない人に報道の仕方をアレコレ言われたらメディアの人も当然ムッとするでしょう。 だから多分、本当に正確なワクチン報道を推し進めたいなら、お互いに自分の足りないところを謙虚に認め、相手の足りないところは寛容に受け入れ、その上で協調しあうしかないと思うのです。 コロナ禍で世界が危機に陥ってる今ほど、お互いにお互いの力を欲してる場面はないはずです。 色々わだかまりはあるでしょうけれど、ぐっとこらえて歩み寄りましょう。 以上です。ご清読ありがとうございました。 #バックアップ/江草令ブログ/2021年/6月