医師の働き方改革や、あるいはコロナ関係での医療逼迫に関連して、「だから病院集約化するしかない」というコメントをしばしば見かけます。
日本は医師数のわりにやたら病院数が多いことは知られていて、それならば病院集約化をして医師を集めた方が効率的に医療が提供できるし、医師の働き方も余裕が出るはずという狙いです。
厚労省などお上からも集約化を進めようという動きが以前から出ています。
江草も理屈自体は「まあそうかなあ」と納得しています。
ただ、実際に現実世界に落とし込もうという時に、「けっこう大変そうだな」とも同時に思ってるんですよね。
今日は、その辺の「病院集約化って大変そうよね」と思ってるポイントについてメモ書き程度に記していきます。
注意点としては、恥ずかしながら江草は病院集約のことは不勉強なので、ほぼ素人の素朴な疑問レベルとして話半分で聞くようにお願いしますね。
あくまで、個人的にふと思ったことを綴ってるだけになります。
まず、異なる病院の人材をただ単純に集めたら揉めそうだなあと。
たとえば、銀行業界の統合合併でもややこしそうだったじゃないですか。
ドラマ『半沢直樹』でも出てきたように「元○○銀行組」とか「元□□銀行組」とかに分かれて派閥争いになっちゃってて。
病院の統合でもそういうことが起きないのかなあとちょっと心配になるんですよね。
病院に限らず、どんな組織もそうだと思うんですが、人が集まって長らく同じ組織の中で働いてると、自然とその組織独自の文化が出来てきますよね。
病院どころか、なんなら病棟レベルでさえ、雰囲気が違ったりしますし。
だからやっぱり、そうした違う文化に集ってる集団同士をパンとくっつけだけで、「はい大きな集団のいっちょあがり」とはならないと思うんですよね。
もともとのやり方が違う者同士が急に一緒に働こうとなったら、多分衝突も少なからず出てしまうんじゃないかと。
もちろん、「そうならないように頑張る」のだとは思いますけれど、「言うは易く行うは難し」的に、かなり大変な調整が必要な部分じゃないかと感じるんですよね。
それで、結果的に新組織内でいがみ合いが起きちゃったら、効率的な医療どころか逆に非効率的な医療になるおそれもありますし、かなり大変じゃないかなと。
もっとも、今まででも合併統合した病院の事例は多々存在しているので、ノウハウもあるでしょうし、意外とうまくいくのかもしれません。
でも、これはあくまで江草の勝手な想像なのですが、今までの合併統合って、多分「やむを得ず合併しないといけなかったケース」なんじゃないかなと思うんですよ。
経営破綻しかけてるとか、後継者不在とか、建物の老朽化とか、それこそ医師不足とか。
しかし、一方の今回みんなが期待してる「病院集約化」って、それなりに元気で体力がある病院を、半強制的にくっつけるという話なんじゃないかなと。
だから、病院の経営陣や職員が「吸収や合併も仕方ないな」と覚悟を決めてるわけではない状況でくっつけるわけで。
そういう元気な者同士をくっつけようとするならば、いっそう新体制での主導権を巡って派閥争いが起きやすいんじゃないかと心配するのです。
あと、文化面や派閥闘争での折り合いがついたとしても、本当に十分に必要な人材が揃うのかも気がかりです。
具体的には覚えてないのですが、「病院集約化するしかない」という意見の中で、いわゆる「町医者」なクリニックの医師や、小病院の医師をもマンパワーに数えてるような言説も見た記憶があります。
でも、そういった人材って、ほんとうに統合した新組織で期待される能力を発揮できる者なのでしょうか。
だって、医療逼迫の解消のために「コロナ対応」してもらったり、働き方改革として交代制で勤務してもらおうというわけでしょう。
それって、多分彼らにとって、元のクリニックや病院で行ってた業務に比べ、急に高度でハードなものになるんじゃないでしょうか。
これは、別にそういう先生方の能力をバカにしてるわけではありません。
そうではなくて、多分彼らは彼らの現場に合わせて長年培ったスキルや経験があると思うのです。
でも、その能力が活かせる場はあくまで今現在勤めてるクリニックや病院であって、集約化された新組織では期待に応えられないおそれがあるんじゃないでしょうか。
とくに、そうした小さなクリニックや病院に勤めてる先生は高齢の方も少なくないでしょうから、急に高度医療や急性期医療を担うことを期待されても難しい面は否定できないように感じます。
良くも悪くも現状に適応し、そこで活躍できるように落ち着いてしまってる。そういう可能性はあるように思うのです。
ならば、高度医療や急性期医療を担うことができ、体力も十分に保っている若い人材が多い組織同士を狙って集約化すればいいのかもしれません。
でも、多分そういう人材って少ないんじゃないでしょうか。
というか、少ないからこそ、この問題が発生してるんじゃないでしょうか。
もともとそういう有力な人材が足りてなさすぎて、人材が足りない病院同士が統合しても結局、あまり実働部隊の効率や余裕は変わらなかったなんてことはないのかなと、心配してしまいます。
他にもややこしそうだなと思うのは、分野によって最適な集約化の程度が違うんじゃないかなという点。
がん診療なんかではある程度思い切って病院を絞ってもいいのかもしれませんが、救急対応が多い分野ではあまり集約化すると、救急搬送での時間ロスにつながるので、限界があると思うんですよね。
放射線科に至っては、「とことん集約化するなら、じゃあほとんど遠隔読影にするか」って話にもなりえますし[1]IVRや治療は別ですが。
過去にそうした分野別の集約化の影響を検討していた研究も見たことはありますが[2]救急搬送の所要時間のシミュレーションとか、現実に日本全国でそれを再設計するとなると、かなりのややこしい作業になりそうだなと、気が遠くなります。
あと、日本全国レベルで医療逼迫や医師の働き方の改善につなげようと思うと、大小問わず相当数の病院を巻き込まないといけないですよね。
だって、集約化や統合に関われなかった病院は、要は現状維持なのですから、効率も余裕もまず変わらないでしょう。
また、医療の逼迫や医師の過労が問題になってるのは大規模な病院も例外ではないので、大規模な病院同士の統合まで視野に入れなきゃいけなくなりますよね。
でもそれもあくまで形式的に経営法人だけ合併したら良いというわけでなく、実際の医療現場で人員を集約してインパクトを与えないといけないので、現物としての施設拡充は必須だと思うんですよね。
そうなると、病院の施設そのものを新設しないといけないとなりますが、そこまでの大きな病院施設となると用地確保がかなり大変そうだなと。
全国各地で同時多発的にやろうとするなら、特に都市部では用地確保はかなり厳しいものがありそうな気がします。
このことを考えると、やりたくても場所がなくてできなくて、そうそうすぐには病院集約化は進まないんじゃないかと感じてしまいます。
そうすると、集約化待機リスト入りのままの施設は結局ずっと我慢が続くのかなと。
他にも、地域住民の反対とか、病院の近所に家を構えちゃった職員の反対とか、なかなか嫌な不安要素が思い浮かびますが、とりあえず今日はこの辺にしておきまして。
だから、なんていうか、やっぱりそもそも前々から人材を増やしてないとダメだったんじゃないかなと、ちょっと思っちゃうんですよね。
医療崩壊、医師不足ってもうだいぶ前からずっと言われ続けてたのに、結局どうにもできなかったのが諸悪の根源なのかなと。
もちろん、済んだことを悔いてもしょうがないですし、今から育てても間に合いませんし、無い袖は振れないのですから、現行のマンパワーでなんとかしようとすると多分「病院集約化」ということになるのでしょう。
しかしまあ、それはそれで、思ってるようなバラ色の光景ではなく、前途多難な嵐の中の航海になるんじゃないかなと、覚悟を決めねばならないのかもなと思うのです。
以上です。ご清読ありがとうございました。
コメント