> [!NOTE] 過去ブログ記事のアーカイブです 今日は、緊急事態宣言を出す出さないの議論に関連して「責任ある立場の人が責任を取ろうとしない問題」について。 劣勢が明らかとなっている昨今のコロナ禍情勢ですが、とうとう東京都など1都3県の知事が緊急事態宣言を国に要望するという事態に発展しました。 これに対し、国は飲食店の時短営業要請を行うように逆に知事側に要望を伝えるという、要望に要望を返す責任転嫁合戦の様相を呈しています。 [政府、緊急事態宣言に慎重姿勢崩さず 「責任転嫁」の都に不信感 - 産経ニュース](https://www.sankei.com/politics/news/210102/plt2101020006-n1.html) 都は国に決断をしてもらって責任を逃れたいし、国は都に決断をしてもらって責任を逃れたい、確かにお互いにそういう責任逃れの意図が透けて見えます。 国の大臣や都知事といった人たちは、大きな権限を持ち、まさに責任を取るのが仕事の人たちです。 そこまで大きな人たちでなくても、理事長だったり社長だったり部長だったり、責任を取るのが仕事の人たちというのは皆さんの身近にもいると思います。 彼らのような**管理者は大抵の場合、高い報酬を得ていますが、その理由は高い報酬に相応しい重い責任を負ってるため、ということになっています。** しかし**当然ながら誰も責任は取りたくはなく、それは責任を負うのが仕事の彼らとて例外ではありません**。 責任を取ってしまうと、せっかくの高い報酬、そして多くの場合付随してくる高い名誉が得られるその職を失う可能性があるからです。 保険金を支払うのが仕事と銘打ってる保険会社が、本音で言えば、できることなら保険金は支払いたくないと思うのと同じで、**責任を負う立場の人も、できることなら責任は取りたくないのが人情です。** 困ったことに、そうした**責任を負うべき立場の管理者たちこそが責任を逃れやすい**という現実があります。 実際に問題が起こるのは現場なので、管理者は基本的に直接問題に対峙しません。 **現場から管理者までの間にはいくつもの指揮系統のステップで隔たっており、責任システム上の距離がある**ので、もし本気で管理者が責任を逃れようとすれば、現場から自分の間の役職の間で重大なミスがあったことにしたり、故意の不正があったことにしたり、避けられない事故があったことにしたり、さらに上の管理者の怠慢のせいにしたり、**いくらでもそれっぽいストーリーを築きあげることができます**。 もちろん、本人に過失がないと認められたとしても、管理者である以上、監督責任、管理責任というのは残りますから、完全に責任を逃れることが難しいケースはあるでしょう。 しかし、それでも「不可抗力で自分に非はないのに、あえて管理責任をしっかり取った理想的な管理職の姿」を演出することができますから、**形式上の引責は申し訳程度に行った上で、道義上はあまり責任がなかったかのようにしたてあげることは容易**なのです。 なんなら、管理責任をしっかり(形式上は)取ったということで「**優秀な人物」と評価が上がる可能性すらあるでしょう。** 結局、**問題が起きた時のリスクやコストを負担するのは、直接その問題と対峙する現場スタッフになりがち**です。別に、大きな権限があり責任の重い管理者立場ではないのにです。 国の失政で、コロナ対策の医療キャパシティが事前に十分に用意できてなかったとしても、国としては「こうした事態は予想できなかった」とか「最善の努力はしていた」などいくらでも言い訳が簡単にできてしまいます。**結局その失政のツケを払って、大変な思いをするのは現場の医師などの医療スタッフです。** 専門医制度設計の失敗で、医師のクオリティは保てず、かえって医学の発展を阻害していたとしても、専門医機構は、「医師たちの志が足りない」と言って各医師のせいに責任転嫁できますし、「いや実際にはクオリティは保ててるのだ」とそれっぽいデータを作成して失敗を認めないことも容易です。**結局、その失敗制度のために、貴重な労力や時間を費やしてスタンプラリーして苦労するのは現場の医師たちです。** つまり、責任を負う立場にありながら、できるなら責任は取りたくない管理者たちは、立場上責任逃れが容易であることから、魔が差して実際に責任逃れしてしまうという構造です。 これがどれだけ恐ろしいことかは、保険会社が保険金を支払う条件をいくらでも後づけで変更できたら、と考えると分かりやすいでしょう。 国と都で責任の押し付け合いをしている間、問題は放置されたままです。結局、その**ツケを払うのは、現場の医療スタッフであったり、かけがえのない国民の命や健康です。** 責任逃れが簡単だからといって、**責任を取るのが仕事の人たちなのですから、ちゃんと責任を負って欲しい**です。 管理社会の構造的なバグとも言える難題ですが、ちゃんと問題に対し、**真の意味で責任を取る人が評価されて欲しい**と、江草は思います。 以上です。ご清読ありがとうございました。 #バックアップ/江草令ブログ/2021年/1月